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建築基準法 - 構造用ステンレス鋼の高規格化

2022年7月28日

主に国際規格や国内規格のおかげで、ビルや橋が突然壊れるということは、幸いなことにめったにありません。構造物は、建築基準で定められた技術および品質レベルで製造された製品を使用して作られているからです。

建築・建設設計基準は、その地域社会のために安全で持続可能な建築環境を実現するためのベストプラクティス、手法、技術的要件を成文化したものです。基準は合意形成プロセスを経て策定されます。つまり材料メーカー、加工メーカー、製造メーカー、設計者、研究者、業界団体、ユーザー、規制当局など、それぞれの対象分野に精通した人々の知恵が凝縮されているのです。

設計基準の要件はしばしば経済性と使いやすさの折り合いをつけるという困難な過程を経て決まります。

また、設計基準が包括的であること、構造、材料、よくある荷重シナリオの範囲に入っていること、そして過剰設計や貴重で有限な資源の浪費とならないよう過度に保守的でないことも重要です。
基準がないと、時間とコストのかかる例外基準を関係建設当局から取得しなければならず、それは多忙な設計者にとっては往々にして受け入れがたいものです。
これが昨年までの米国における構造用ステンレス鋼を設計する際の状況であり、市場の大半を占める溶接部、熱延部、中空部といった大半の構造部には、ステンレス鋼の設計仕様が存在しませんでした。その結果、エンジニアやその顧客にとって、構造基準や承認規定のある他の鋼鉄、アルミニウム、木材、FRP、コンクリートなどを使う方が、はるかに簡単で安く、そして時間もかからなかったのです。このような状況が、ステンレス鋼の市場拡大と普及の大きな妨げになっていました。

米国鉄鋼構造物学会

米国鉄鋼構造物学会(AISC)の構造設計基準やそれに準じた仕様が、北米・南米、そして中東、さらには中国でのプロジェクトの約3割に採用されています。

2018

ステンレス鋼業界が話し合いを始めてから10年後の2018年になって、ついにAISCは構造用ステンレス鋼の完全なANSI(米国国家規格協会)設計基準を作るという意向を表明しました。

ステンレス鋼の加工、溶接専門家、製錬技術者、設計者、学識経験者が参加するAISC構造用ステンレス鋼委員会の設立をもって作業が開始されました。新しい設計ルールの作成には、英国の鉄骨建築協会が主導的な役割を果たしました。これは過去30年余りにわたって世界中の大学で行われてきた重要な構造研究に基づくもので、すでに構造用ステンレス鋼の欧州規格の規則を策定する際に、その基礎として使われていました。

オーステナイト系ステンレス鋼レーザー溶接 I形ビームおよびチャンネル

2021

その3年後、新しい設計基準ANSI/AISC 370-21構造用ステンレス鋼建築物が発表されました。

ANSI/AISC 370は構造用ステンレス鋼の米国初の設計仕様です。2021年に発表されました。

この最新の、使いやすくて経済的な設計仕様が利用可能になることで、構造用ステンレス鋼の設計における長年の大きな障害が取り除かれ、ニッケル含有オーステナイト系および二相ステンレス鋼が世界市場で使用される可能性が広がるものと期待されています。この標準化作業のメリットは、建物や関連構造物にとどまりません:このステンレス鋼の設計ルールは、世界的に使用されていますが、現在はステンレス鋼の構造設計情報を含んでいないANSI/AISC N690、原子力施設向けの安全関連鉄骨構造仕様、の中で参照されるとの期待があります。

さらに、AASHTO(米国全州道路交通運輸行政官協会)の支援の下にANSI/AISC 370の規則を修正し、米国内の二相ステンレス鋼の高速道路、歩道橋、鉄道橋の設計に使用できるようにする作業が開始されています。

この記事は、2022年4月に弊協会のニッケルマガジン第37号第1巻に掲載されたものです。

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