ニッケルブログ

EU電池規則:現状は?

2022年2月3日

規則案では、幅広い持続可能性要件が導入され、ニッケルを始めとする主要な電池原材料のリサイクルが促進されることになります。EUの立法作業は重要な段階に入っているのです。

欧州議会の環境委員会には何千もの修正案が提出されており、まもなく、その報告書が採択される予定です。これと平行して、現在もEU理事会では書類一式に関する加盟国間の交渉が継続されています。大きな進歩が見られる一方で、重要な問題はまだ解決されていません。ニッケル協会では規則の迅速な採択を確保し、既存のEU法との重複、その複製を避けるべく、野心的かつ現実的なアプローチを求めています。

これは、欧州グリーン・ディールの実施に向けた主要なEUイニシアチブの1つです。

背景:

野心的で複雑かつ革新的な立法案

2020年12月、欧州委員会は、電池および廃棄電池に関する規則案を公表しました。これは、欧州を低炭素・循環型の経済に向けて動かし、クリーンなモビリティを促進する、欧州グリーン・ディールの実施に向けた主要なEUイニシアチブの1つです。

また、欧州域内に持続可能な電池バリューチェーンを育成し、電池原材料供給におけるEUのレジリエンスを高めるという目的もありました。委員会の規則案は、持続可能性に重点を置き、電池やニッケルを始めとする主要な電池原材料に幅広い新要件を導入しています。採掘から使用済みになった後の管理に至るまで、電池のライフサイクル全域を網羅する包括的枠組みを開発すべく、多大な努力を積み重ねてきたのです。

規則案では、電気自動車(EV)用電池に明確な焦点を合わせ、EU市場に投入される電池に新たな要件を導入することになります。原材料生産者が特に注目すべきは、カーボンフットプリント、リサイクル含有量、リサイクル効率、材料回収目標値、デューデリジェンスに関する規定です。

EV向け技術が確立された電池とともに新興技術においてニッケルが果たす主要な役割を鑑み、ニッケル協会とニッケル業界は、多大な関心をもって、この立法作業の進展を見守っています。

現状は?

ENVI 委員会のメンバーは1000本を超える修正案を提出しました。

委員会の提案は、現在、欧州議会(EP)と欧州理事会による審議の最中で、規則は両機関によって共同で採択されなくてはなりません。政策立案者は、正しい方向への前向きな一歩として同提案を歓迎しています。その一方で、一部の側面と野心的なレベルについて意見の相違があるのも事実です。EPでは、産業(ITRE)、域内市場(IMCO)および運輸(TRAN)委員会が見解をすでに採択しています。2021年10月、報告者のシモーナ・ボナフェ欧州議会議員が本案件を主導する環境(ENVI)委員会で報告書草案を発表しました。ENVI委員会のメンバーは全体で1000本を超える修正案を提出しています。これは膨大な数ですが、提案された規制の複雑さを考えると驚くことではありません。

EP環境委員会で実施予定の重要な採決

ENVI委員会は、妥協修正案に関する激しい議論と交渉を経て、2022年2月10日、同ファイルについて採決を行う予定です。これは、3月の本会議、EU機関の間で今後行われる交渉の前に、EPの立場を定義する重要な採決になるでしょう。

2月10日 ENVI 委員会で採決予定

EUの手続きにおける次のステップは?

EPは、報告書を採択した後、欧州理事会と交渉しなくてはなりません。理事会も数々の修正案を用意しています。立法作業は、EU議長国のフランス(2022年上半期)およびチェコ(2022年下半期)の後押しを受けて、その後、全速力で継続されると考えられています。

意図せぬ結果や既存EU法との重複を避けることが重要になるでしょう。

ニッケル協会の見解

ニッケル協会は、委員会の提案を歓迎するとともに、同規則の目的を全面的に支持しています。同時に、効果的でより実行可能な規則の枠組みを確保すべく、一部の側面については改善できるとも考えています。特に、意図せぬ結果や既存EU法との重複を避けることが重要になるでしょう。ニッケル協会の立場表明書(2021年7月)に詳細を概説したとおり、当協会のコメントと提案の焦点は下記のとおりです。

1. リサイクル含有量(第8条)と回収目標値(第57条、付属書XII第C章):

この提案には、電池のリサイクル含有量に対する拘束力のある目標値と、ニッケルやその他金属の回収目標値が含まれています。最初に適切な算出・検証方法を開発かつ合意することなく目標値を定めてしまうと、目標値を達成できるのか否かについて不確実性が生じる可能性があるというのが私たちの見解です。目標値の実現可能性は、時間の経過とともに進化していく数々の要因(利用可能な技術など)に依存します。こういった理由から、当協会は、目標値の設定に段階的アプローチを採用するよう提案します。

委員会がニッケルについて提案した最低95%という回収目標値は、すでに野心的な数値です。この段階で、一部のEP修正案で示唆されているような増大を提案するのは、委員会が目標値の算出方法をまだ採択していないことから、極めて時期尚早であると言わざるを得ません。さらに、前述したように、目標値の実現可能性は今後数年間で進化する多くのパラメーター(例えば、使用中の電池の数、その寿命、リユース電池の取込みvsリサイクルなど)に依存します。従って、より適切であると考えるのは下記の方法です。

1. まずは、目標値の算出・検証方法を定義する。

2. 次に、各種リサイクリング・回収目標値の費用と便益、国際貿易の流れに及ぼす影響を評価する。

3. その後、適切かつ評価可能な目標値を導き出し、合意する。

2. デューデリジェンス(第39条と72条、付属書X):

当協会は、デューデリジェンスを全面的に支持し、原材料の持続可能な調達が最優先事項であることに同意します。ただし、適用に特化したデューデリジェンス要件は、サプライチェーン上流部における報告義務の増大をまねき、適切かつ効率的なリスク管理から労力を奪うことになりかねません。規則の一貫性を確保し、重複を避けるためには、バリューチェーンと原材料全般に対するリスクベースの水平的アプローチの方が適切でしょう。従って、今後予定されている、デューデリジェンスと持続可能なコーポレートガバナンスに関するEU水平的イニシアチブと結びつけることを提案します。

さらに、委員会が提案しているように、業界主導のスキームへの参加を通してデューデリジェンス要件を実施する可能性を残すことが重要です。業界主導のスキームが、第三者による検証も含み、同要件を満たす場合には、電池に対するデューデリジェンス要件の実施として認められるべきでしょう。

3. 実施スケジュール:

多くの要件に対するスケジュール案は野心的です。時間内に必要なデータを収集し、方法を確立する上で、実現できないかもしれないという課題になりかねません。サプライチェーンの複雑性、さまざまな算出方法などを採用する必要性を考えると、提案されているスケジュールの一部は短すぎる可能性があります。

より現実的な実施期限を設定し、当局と業界が準備するために十分な時間を確保すべきと当協会は考えます。この際、必要な方法の開発とデータ収集に要する時間も考慮に入れるべきです。

4. 電池技術と持続可能性の要件:

持続可能性要件の焦点がニッケル、コバルトを含む電池技術に当てられているというのが現状です。“将来にわたって有効に使える”規則にするには、電池技術の将来的な変化に対応できるメカニズムを導入し、公平な競争の場を確保すると同時に、リサイクル含有量と材料回収の目標値や持続可能性要件に該当しない原材料が関与する電池化学への移行を阻止するのが妥当であると考えます。

5. 有害物質(第6条および71条):

同提案には、電池内の有害物質を規制するための暫定手続きが含まれています。規制の不確実性を低減するために、当協会は、既存の化学物質管理(すなわち、REACH規則)および職場の保護(OSH)に関するEU法との重複やその複製を避けるよう提案します。

電池バリューチェーンの各部(原材料の供給、電池の製造、下流での使用、リサイクル)を網羅するいくつかの業界団体が、1月発行の包括的共同立場表明書において、この問題やその他の問題について同様の見解を表明しています。ニッケル協会は、非鉄金属業界を代表し、この共同イニシアチブに連署したEurometauxの一員です。

結論:この先もさらなる作業が!

EUの政策立案者はすでに多大な作業をしてきましたが、この規則の採択に向けて今後も一層の努力が必要です。

主要なステップとなるのは、EP環境委員会による次の採択でしょう。これと平行して、フランスが議長国を務めるEU理事会は、2022年3月17日(要確認)に環境委員会で政治的合意を見いだすべく、交渉を進めています。

EPと欧州理事会が修正案合意に至るまでにどれだけの時間を要するのかを見極める必要があります。従って、委員会が期待しているように、新規則が2022年に採択されるか否かは不透明な状況です。ただ、明らかなのは、この採択が新たなEU規制枠組みを構築するという長い道のりにおける、最初の大きな1歩に過ぎない点でしょう。EUの、いわゆる“二次立法”を介して、その後数年にわたり、委員会は複数の要件とともに実施方法を採択していかなくてはなりません。

この間、EV電池バリューチェーンのその他業界とともに、利害関係者との対話を継続し、規則の実施に備えることが重要となります。

新規則は、新たなEU規制の枠組みを構築するという長い道のりにおける、最初の大きな1歩に過ぎない。
ブログ本文(英語版)へ

←ブログ一覧へ戻る

このページのトップへ