ニッケルブログ

風と水と - クリーンエネルギーとニッケル

2021年9月23日

わずかな量のニッケルであっても、弾力性を高め、クリーンテクノロジーの導入を成功させるためには重要な役割を果たします。

国際エネルギー機関(IEA)は、最近の主要報告書「クリーンエネルギーへの移行における重要ミネラルの役割」の中で、低炭素排出技術が既存の持続不可能な発電方法に取って代わるために、さまざまな金属や鉱物が必要となることを示しています。レポートでは、いくつかのクリーンテクノロジーにおけるニッケルの重要性(高、中、低)を示しています。

わずかな量のニッケルであっても、弾力性を高め、クリーンテクノロジーの導入を成功させるためには重要な役割を果たします。例えば、水力発電。水力発電においてニッケルの重要性は低い(量が少ない)とされていますが、タービン翼の溶接性やダムの水門に使用されるその他の部品の長寿命化にはニッケルの使用が極めて重要となります。用途によっては、それらの技術にニッケルが必要不可欠であるとさえ言えます。

クリーンエネルギー技術のすべてがニッケルを使用しています!

IEAのレポートでは発電のみを取り上げていますが、その他のクリーンテクノロジーの中には、熱という形でエネルギーを生み出すものもあります。例えば、バイオ燃料の生産には、ステンレス鋼の形でニッケルが多用されています。実際、エネルギーミックスの多くが何らかの形でニッケルを必要としており、クリーンエネルギー技術のすべてがニッケルを使用しています。

ここでは、地熱発電、水力発電、風力発電の3つのクリーンエネルギー技術におけるニッケルの関与を詳しくご紹介します。

地熱

地球の奥深くにある熱を利用して、発電したり、住宅や建物を暖めたりすることができます。概念は至って単純です- 約150℃以上の蒸気や加圧熱水をパイプで地表に上げ、タービンを回して発電し、その後冷却するという仕組みです。低温になった水は、配管を通って地域暖房システムに送られ、その後、水源に戻って自然に再加熱されます。地熱発電の大きなメリットは、太陽光や風力と違って、得られるエネルギーが信頼でき、いつでも利用できることです。

現在の地熱エネルギーの生産量は非常に限られており、おそらく1,600万kWの容量しかなく、水源が地表に比較的近い場所、通常は深さ3キロ以内の場所に限られています。地熱発電所の資本コストは、他の持続可能な発電技術に比べて高い傾向にありますが、システムの継続的な稼働により、そのコストは正当化されます。

これら発電所では、使用する合金の中に100トンものニッケルが含まれていることもあります。これらの材料は、それぞれの用途に応じて、耐腐食性、強度、優れた熱伝導をもたらすクリーンな表面等々、コスト効率の高いサービスを実現します。

水や蒸気の質は、場所によってかなり違います。水の中には、多量の塩化物や硫化水素を含む、非常に腐食性の高いものもあります。そこで重要になるのが、ニッケルを含む合金の使用です。カリフォルニア州のソルトン湖プロジェクトのように、C-22(N06022)のようなニッケルベースの合金を多用している設備もありますが、その他のほとんどの設備では、低合金の材料の使用で問題ありません。

地熱発電所

例えば、アイスランドの首都レイキャビクの近くにある世界で6番目に大きなヘリシェイジ地熱発電所を例にとってみましょう。30.3万kWの電力と、家庭や企業の暖房に使われる40万kWの熱エネルギーを生産し、19.5kmの長さのパイプで市内に運ばれています。源泉からは、低濃度の塩化物と若干の硫化水素を含む約200℃の水が噴き上がってきます。

Hellisheiði Power Station - Sigrg, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

このシステムに使用される材料は、典型的な炭素鋼ケーシング合金から、様々な種類のステンレス鋼、高ニッケル合金まで多岐にわたります。また、重要な部品にはチタンまでもが必要となってきます。ニッケルが使用されている主な部品には、タービン、コンデンサー、熱交換器、ポンプ、配管システムなどがあり、これらの部品には、630タイプのステンレス鋼(S17400)、316L(S31603)、種々の二相合金、6%Mo(S31254)、ニッケル合金625(N06625)などが使用されています。

これら発電所では、使用する合金の中に100トンものニッケルが含まれていることもあります。これらの材料は、それぞれの用途に応じて、耐腐食性、強度、優れた熱伝導をもたらすクリーンな表面等々、コスト効率の高いサービスを実現します。

水力発電

水力発電は、現在、再生可能エネルギーの中で最大の電力源となっています。IEAによると、2040年までに、主にアジア太平洋地域で70%の容量増加が見込まれています。今後も重要な再生可能エネルギー源であり続けるでしょう。発電所の数は増えますが、それに加えて、古い発電所の改修や効率の改善が必要になるため、より長い寿命とより大きなエネルギー生産のために最新の技術を取り入れることとなります。

発電所の心臓部である発電機は、圧力のかかった水の流れによって駆動されるタービン(ランナー)、そして銅線を巻いた固定されたステーターおよびその中に磁石を含む可動式のロータで構成されており、これによって電気を発生させます。

水力発電:最も耐久性のあるタービンにはニッケルを含有するステンレス鋼が使用されています

通常、タービンにはニッケルを含有するステンレス鋼が使用されています。タービンには耐食性と耐キャビテーション性の両方が必要です。大きさは様々ですが、非常に大きなものが多く、溶接や溶接補修ができるかどうかが材料選定の重要なポイントとなります。

これらの理由から、最も耐久性のあるタービンは、410NiMo (UNS S41500)、EN 1.4488 (UNSなし)、Type 304 (S30400)などのニッケル含有マルテンサイト系およびオーステナイト系ステンレス鋼、およびそれらの鋳造品で作られています。ステーターも大型で、ニッケルを含むオーステナイト系ステンレス鋼の非磁性が性能の鍵を握っており、特にXM-19(S20910)のような合金が適しています。

水圧や水量の増加に伴い、他のシステム部品もニッケルで軽量化や耐久性の向上を図ることができます。高強度低合金(HSLA)鋼は、導水管(タービンに水を送るための大口径パイプ)の将来の開発に向けて、有望な候補となっています。導水管の直径は大きなもので10mにもなります。強度の高いスチールを使用することで軽量化が図れ、また、内径を大きくできるというメリットがあります。ニッケルはこれらの合金が高強度を得るために必要なマルテンサイトの形成を促進します。ニッケルは、導水管材料の溶接性を向上させるという利点もあります。低コスト、鋼材使用量の削減、効率性の向上といったこれらの利点は、この重要な再生可能分野の将来にとっての鍵となります。

風力発電

近年、風力発電は急速に普及しており、全世界で約75,000万kWの発電容量があります。風力のエネルギーコストが下がる一方で、個々の風車のサイズは大きくなり、現在では1万kW以上の風車が提供されています。より大きな風力タービンは、使用材料強度(単位当たりの材料利用度)が低くなるため、持続可能性の重要な基準であるエネルギー1MWあたりの材料使用量が少なくなります。ここでもニッケルが重要な役割を果たしています。

ニッケルの使用は、ステンレス鋼としての使用が最も多く、風力発電機では、はしご、制御盤、結合部品などの安全性が重要視される部分には、実際にステンレス合金が使用されています。しかし、風力発電におけるニッケルの主な用途は、強度を高めたり、靭性を向上させたりするために低合金鋼に添加する少量の合金材料としてのものでしょう。多くの合金元素は鋼の強度と硬度を向上させますが、ニッケルは風力発電機の運転に不可欠な靭性(破壊せずに機械的エネルギーを吸収する能力)も向上させる数少ない元素の一つです。

タービンのギアボックスには、最も重要な可動部があります。8,000kWのタービンのギアボックスは86トンにもなります。陸上の風力発電機では、何か大きな問題が発生した場合、部品やギアボックス全体を交換するのは非常にコストのかかる作業ですが、海上の設備では、そのコストやダウンタイムは膨大なものになります。このように、風力発電を経済的に実現するためには、信頼性と長寿命化が不可欠な要素となります。また、最も強い風が吹く中で、ギアボックスが設置されているナセルの重量を構造体が支えなければならないため、ギアボックスの重量も重要です。

ナセルを1kg軽量化することで、支持構造の材料を10kgも削減することができます。設計も重要ですが、合金の選定も重要です。現在、ギアボックスに使用されているスチールの多くにはニッケルが含まれており、一部の部品では2%も含まれています。タービンサイズが2万kWになると、さらに高いニッケル合金鋼が提案されています。現在はニッケルを使用していない部品も、将来的には軽量化と信頼性向上のために0.5%程度のニッケルを使用することになるでしょう。

設計も重要ですが、合金の選定も重要です。

北極圏の風力発電

カナダ北部の遠隔地にある拠点に電力や熱を供給することは、特に拠点までの道路がない場合、常に困難を伴います。ケベック州の北3分の1を占めるヌナヴィクに、グレンコア社が所有するニッケル鉱山「ラグラン鉱山」があります。短い航行可能な季節の間に大量の軽油が海路で運び込まれます。冬は暗く、寒さが厳しいので、暖房と電気は絶対に必要です。風力発電は、数少ない代替エネルギーの可能性を秘めたエネルギー源です。しかし、吹雪をも伴う北極圏の極限状態で、その技術は安全に機能するのでしょうか?

© Justin Bulota

2014年と2018年に2基の風力発電機が建設・設置され、リチウムイオン電池を含む高度なエネルギー貯蔵システムも導入されました。また、風車とディーゼルのエネルギーシステムの統合も必須でした。これら最初のステップは大きな成功をおさめ、コンセプトの実行可能性が証明されました。現在、新たに3MWの風車を2基設置する可能性を検討しています。1台のタービンで年間200万リットル以上のディーゼル燃料が節約でき、3,600トンの二酸化炭素が削減されます。

ニッケルは成功に貢献しています

風力発電機1台には、約2,000kgのニッケルが使用されています。 1台のタービンで年間200万リットル以上のディーゼル燃料が節約でき、3,600トンの二酸化炭素が削減されます。ニッケルは成功に貢献しています。風力発電機1台には、約2,000kgのニッケルが使用されています。ニッケルを使用する用途としては、ナセル領域ではベアリング、シャフト、ギア、油圧部品、その他の領域では締結具材、制御盤の筐体、その他多くの部品があります。

この記事は、2021年9月の弊協会ニッケル誌第36号第2巻に掲載されました。

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