ニッケルブログ

食品の安全性:ステンレス鋼がなくてはならない材料である理由

2020年5月18日

食品の安全性は厳格な衛生管理から始まります。ニッケル含有ステンレス鋼は「農場から食卓まで」のフードチェーンのすべてのつなぎ目で、秀でた信頼性の高い標準となっています。

食料の供給と食品の安全性は、全世界がまさに今直面している問題です。世界保健機関 (WHO) によれば、毎年10人に1人が汚染された食品を口にして健康を害しており、 その結果毎年42万人が命を落としています。中でもとりわけ高リスクなのが子供たちです。

各国の規制当局も食品の安全性を深刻に捉えています。米国では食品安全近代化法 (FSMA) が施行され、中国では食品安全法が2015~2016年に改正され、インドでは食品接触材 (FCM) に関する規制が厳格化され、欧州では医薬品の品質の欧州理事会 (EDQM) の食品接触材および物品に用いる金属および合金についての技術ガイドが公表されていますが、これらはいくつか例を挙げたに過ぎません。


EUでは、食品の安全性に関する規制内容が以下の三つの規則により提示されています。

1. 枠組み規則 EC 1935/2004 (材料)

  • 食品製造・加工設備の材料が味、食品の品質や色を変えてはならないと定めています。
  • また食品製造・加工設備の材料が、病気を引き起こしたり、人の健康に悪影響を及ぼしたりしてはならないとも定めています。
  • これは食品製造・加工設備の材料供給業者にとって重要な規則です。

2. 機械指令 EC2006/42 (衛生的設計と実行)

  • 加工中の食品の安全性を保つため、食品製造・加工設備をいかに設計し、組み立てるべきかが定められています。
  • これは食品製造・加工用の設備製造業者にとって重要な規則です。

3. 食品衛生規則 EC852/2004

  • 農場から食卓に至るまでの加工・調理段階における食品の安全性と衛生状態の保持が焦点です。
  • これは食品事業者向けですが、食品製造・加工設備の材料および設備製造業者に課される責任も意図されています。

総体的にこれらの規則は、食品製造・加工設備の材料供給業者、設備製造業者、食品事業者が、農場から食卓に至るまで食品を安全に食べられる状態に保つ責任を連帯で負うことを目的としています。


健全な科学と科学的根拠のある規制に基づいた食品の安全性への投資は、国連の持続可能な開発目標の達成を支援します

健全な科学と科学的根拠のある規制に基づいた食品の安全性への投資は、食品業界に十分な利益を確保しつつ、国連の持続可能な開発目標の達成を支援し、食品汚染の課題に取り組む基盤となります。

そのような投資のひとつとして挙げられるのが、ニッケル含有ステンレス鋼製の設備です。食品加工、ケータリング、家庭での調理など、商業規模にかかわらず、食品関連業の多くがステンレス鋼の衛生的な特性から、バリューチェーンを通して消費者のために食品の安全性を保つ、という恩恵を享受することができます。

ニッケル含有ステンレス鋼は、食品の味や色を変えたり、食品を汚染したりすることがないだけでなく、簡単で有効な洗浄・殺菌が可能なことから、食品の安全性を保つ上で卓越した性能を発揮します

衛生管理のための設計

食品業界向けの設備を設計・選択する際、「衛生」は多方面に及びます。食品の製造・加工に用いられる機械装置の材料は、製造・加工工程にともなう汚れの蓄積に対して耐性があると同時に、オペレーションの合間に容易に洗浄・殺菌できなくてはなりません。さらに機械装置の材料は、腐食したり、人の健康に悪影響を及ぼす成分が食品に付着したりしないものである必要があります。ただ、ニッケル含有ステンレス鋼の実力はこれだけにとどまりません。複雑な形状や構成部品への成形性、機械加工性、溶接性により、実用上も経済的にも優れた精度での製造が可能なのです。

出典:Fullwood Ltd.

ステンレス鋼の特性を余すところなく

ニッケル含有ステンレス鋼の汎用性を示す実例のひとつとして挙げられるのが搾乳場です。ここでは、ステンレス鋼が活用されています。この市場は利幅が狭く、乳腺炎や牛乳の汚染といった問題が起きれば、壊滅的な損害を酪農主に招いてしまいます。衛生管理は最重要課題で、配管、搾乳設備、タンクなどは毎日の洗浄と消毒を入念に行わなくてはなりません。排泄物に対する耐食性や清浄性などの属性を持つステンレス鋼は、この厳しい要件の中で優れた性能を発揮し、衛生と消毒という目的を達成する上で役立っています。

また、ステンレス鋼は牛乳を新鮮に保つ上でも不可欠です。牛乳は細菌数が監視されており、きわめて厳格に制御できていなければ不良品となります。乳牛の乳から分泌された35℃の原乳は、細菌の繁殖を防ぐためにただちに4~6℃に冷却され、収集されるまでの期間、通常は攪拌機を備えたステンレス鋼タンクに保管されます。酪農業では冷却と加熱に用いる熱交換器は重要な装置であり、原乳の熱を除去する際にも用いられます。場合によってはその熱をさらに利用して、たとえば洗浄水の予熱や室内暖房に役立てます。ステンレス鋼は、搾乳場のタンクから集めた原乳を加工のために工場に輸送する、トラック据え付け式の原乳タンク容器にも用いられています。

牛乳を飲用に低温殺菌するにせよ、乾燥させて粉ミルクにするにせよ、チーズやヨーグルト、バターやアイスクリームの製造に使うにせよ、非常に厳しい衛生基準を満たすにはステンレス鋼製の設備が必要です。
グレードとしては、304L系 (UNS S30403) ならびに316L系 (S31603) ステンレス鋼が主に使用されていますが、現在ではより厳しい条件下においては二相系の合金も用いられます。

ステンレス鋼は厳格な衛生管理を要する用途になぜ適している?

清浄性は衛生管理のカギです。ステンレス鋼のなめらかで光り輝く表面は、抜群に洗浄しやすいだけでなく、時間が経過してもその状態を維持することが可能です。また、摩耗・衝撃・温度変化に耐えつつ、汚れや堆積物の蓄積も抑えます。

また損傷や劣化の恐れがある塗布コーティングと比較しても、ステンレス鋼は自然に形成され自己修復する不動態皮膜がより優れた防食性能を発揮します。容易に洗浄・消毒できるステンレス鋼は、細菌を効果的かつ手軽に除去することができます。その低い細菌保持性は実験によって証明されており、食品産業にとっては非常に魅力的な材料です。さらに繰り返し使用しても、非の打ち所のない清浄性が維持されます。ですから、すべての工程で厳しい衛生基準を満たすことができるのです。加えて、ステンレス鋼の耐食性は不活性を意味し、発酵させる乳によって生成される乳酸やトマトといった酸性食品に耐食性を発揮し、食品や飲料の味や匂いを変えることはありません。

イタリア料理の秘密の成分

イタリアの料理の伝統はステンレス鋼の機能性を示す最たる例でしょう。ニッケル含有ステンレス鋼はその衛生性・耐食性、ならびに魅力的な光沢のある表面で、この効果的な材料を頼りにするイタリアの食品産業で特筆すべき役割を果たしてきました。例えば、ステンレス鋼はココアペースト、ココアバター、チョコレートの貯蔵に広く用いられています。

製造工場にはさまざまな容量と重量のステンレス鋼製タンクがあり、いずれも食品産業規格に合わせて個別に設計され、ステンレス鋼304L系 (UNS S30400) を使用しています。ステンレス鋼は1973年イタリア省令 「自家用の食品または物質と接触する包装・容器・器具・装備に関する衛生規則」の仕様に適合しています。この仕様は、食品産業で使用可能なステンレス鋼グレード一覧も掲載しています。

美食の国としてのイタリアの定評は、世界的に名高いデザイン感覚も相まって調理器具にまで及んでいます。その汚れのない仕上げ、耐久性、へこみや傷に対する強度を誇るステンレス鋼は、調理器具に使われる材料として魅力的な選択肢のひとつです。機能性・衛生性・デザイン性に加え、調理器具にとって重要な要素である風味の保持が可能なステンレス鋼は、厳しい仕様に適合することができます。イタリア人デザイナーの専門知識、ノウハウ、創造力とニッケル含有ステンレス鋼の美点の出会いが、美しく高品質な調理器具の製造を可能にしたのです。

その汚れのない仕上げ、耐久性、へこみや傷に対する強度を誇るステンレス鋼は、魅力的な選択肢のひとつです

すべての食品用途にステンレス鋼

ニッケル含有ステンレス鋼は、食品産業における数多くの用途に適しています。牛乳からビールに至るほぼすべての食品用途でオーステナイト系のステンレス鋼が用いられており、304系が標準となっています。また、魚類や食肉製品はさらに高級なグレード、たとえば316L系 (S31603) を要する場合があるほか、醤油生産など極度の腐食環境には、それに耐えられるように開発されたスーパーオーステナイト系のステンレス鋼が用意されています。万能の耐食性と洗浄の手軽さを兼ね備えたステンレス鋼は、食品の調理や提供にとって極めて重要な二つの特性である耐久性と衛生性の双方を実現しているのです。

食品の安全性は厳格な衛生管理から始まります。ニッケル含有ステンレス鋼は食品の製造・加工から提供までフードチェーンのすべてのつなぎ目で、秀でた信頼性の高い標準になっているのです。今日生産されるニッケル全体の25%以上は、食品飲料部門に関係するステンレス鋼製品に用いられています。ニッケル含有ステンレス鋼は、文字どおり、農場から食卓に至るまで食料供給チェーンになくてはならない成分であり材料なのです。

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