ニッケルとライフサイクル

ニッケルの生産は利用および再利用のサイクルにおける最初のステップに過ぎないため、ニッケルそのもののライフサイクル評価(LCA)はあり得ません。しかし、ニッケル製品のライフサイクルインベントリー(LCI)であれば、何らかの形態でニッケルを利用するすべての製品またはシステムのLCAについての入力データとなります。ニッケルの存在を必要とする製品やシステムとそうではない製品やシステムを比較するライフサイクル評価では、寿命末期の管理段階やリサイクル段階においてニッケル利用の経済的・環境的利点を実証することができます。

製品やシステムによっては、ニッケルLCIデータの有無がLCAの結果にほとんどあるいは全く影響を及ぼさない場合があります。これは、使用されているニッケルの量がごくわずかな場合や、他の入力データに関係して利用段階で発生する負荷(たとえばエネルギー消費、大気、水、土壌への炭素などの排出)が非常に大きいため、ニッケルに関係する負荷が相対的に有意でなくなる場合です。

ただしニッケルが重要な材料成分である製品では、ニッケルの存在が製品の環境評価に大きな影響を及ぼします。

  • ハイブリッド自動車バッテリー用のニッケル水素(NiMH)電池
  • ニッケルカドミウム電池を利用するコードレス動力工具
  • ニッケル含有ステンレス鋼

NiMH電池に関するLCAについては公表されているものがあり、そこでは関心と重要性が高まりつつあるニッケルの最終用途について取り上げています。比較対象はトヨタの2製品、すなわちプリウスⅡ(現在は燃料効率をさらに改善したプリウスⅢに代わっています)と内燃機関(ICE)を使用するカローラです。この評価のテーマは電池のリサイクルであり、その点でICEに対しハイブリッドは大きな優位性を示していますが、燃料節減分も無視できないものでした。

プリウスⅡとカローラの比較

カローラ プリウスⅡ
ガソリン消費量(ℓ/100km)
市街地 8.5 5.0 3.5
郊外 5.8 4.2 1.6
NEDCによる混合値 6.8 4.3 2.5
150,000kmでのガソリン消費量(ℓ/ライフサイクル) 10,350 6,450 3,900

注:ガソリン消費量の数値はNEDC(欧州新基準)による。専門家によれば、実際のガソリン消費量は上記より10~15%ほど多いと推定される。

コードレス動力工具は効率と生産性の面で大きな利点がありますが、ニッケルカドミウム電池の寿命末期管理は環境および政策にとっての重要課題です。コードレス動力工具のLCAで公開されているものはありません。

ニッケル含有ステンレス鋼に関する単位プロセス型(Gate-to-Gate)のLCAは、関心を持ちデータへのアクセスを請求した有資格の個人(つまりLCAを利用および理解する能力を持った個人)または団体に公開されています。

そのほか関係する2つの調査があります。

International Journal of Life Cycle Assessment誌に発表されたサザンクイーンズランド大学のDavid Parsons氏による「消費者用の使い捨て電池と充電式電池の環境影響比較」。発行者は文献全文のダウンロードには料金を課しています。ただし適切な要約が示されており、主要な結論は次のとおりです。

  • 分析結果は、充電池式電池の圧倒的優位を示すものであった。この結果は、調査したすべての影響基準について当てはまり、また在庫期間が長い場合や放電率が高い場合など楽観的ではない電池使用シナリオについても言えることであった。
  • 現在オーストラリアで使い捨て電池の市場が非常に大きいことを考えれば、充電式電池への移行がもたらす環境面と経済面のメリットを消費者に啓蒙する必要があり、またそれより程度は劣るものの企業に対してもその必要がある。

電池の環境影響に関するUNIROSS調査。これは、充電式電池の設計、製造、流通に携わるUNIROSSのためにBio Intelligence Servicesが実施した調査です。消費者用の充電式電池とアルカリ電池を比較し、生産するエネルギー量を一定(1kWH)とすれば、充電式電池の環境影響は32分の1に抑えられ、最適とはいえない条件下においても(つまり充電式電池の利用者全員がその利点を活かし寿命を最大限に伸ばす使い方をしない場合であっても)、2つの電池タイプにおける環境性能ギャップはなお非常に大きなものであると結論しています。

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