底質区分のバイオアベラビリティ

生きているイトミミズの集合体は富栄養化した湖沼の泥によく見られます

「ニッケルの既存物質リスク評価」が2008年に完了しました。このリスク評価の目標は、欧州連合(EU)で現在行われているニッケルの生産と利用がヒトや環境にリスクをもたらすかどうかを判断することでした。欧州連合は欧州理事会規制(EEC)793/93を遵守するため、2001年から「既存物質」規制を開始しています。「既存物質」とは、欧州共同体において1981年9月以前から用いられ欧州既存商業化学物質インベントリに記載された化学物質と定義されています。理事会規制(EEC)793/931は、既存物質がヒトの健康や環境に対して持つリスクを評価するための体系的な枠組みを提示しています。
EUのニッケルリスク評価の環境部分を実施する概念的アプローチには以下の各段階が含まれます。


  • ニッケルおよびニッケル化合物の環境への排出量を、全ライフサイクルについて、つまり生産から使用、処分に至るまで、定量化する
  • これらの排出によるニッケル濃度を、地方および地域規模で関係する環境媒体(水、底質、土壌、組織)において決定する(PEC)
  • 関係する各環境媒体で臨界影響濃度(PNEC:予測無影響濃度)を求める
  • 関係する各環境媒体でばく露濃度を臨界影響濃度と比較する(リスク判定)
  • ばく露濃度が臨界影響濃度を上回る状況に対しては、適切な是正措置(リスク管理)を適用する。ばく露濃度が臨界影響濃度を下回る場合には、是正措置の必要はない

ニッケルおよびニッケル化合物に関する最初のEUリスク評価は2002年から2008年までの期間にわたって作成されましたが、欧州委員会は底質コンパートメント(区分)に関する既存データの不足を指摘しました(2008年欧州連合公式ジャーナル)。したがって、底質中のニッケルのリスク評価を行うべく、バイオアベラビリティに基づくリスク評価アプローチの科学的基礎を確立するために、複数の実験研究所と共同で多段階に及ぶ研究プロジェクトが実施されました。実験研究所での試験プロジェクトは、次の目的を満たすために3つの段階で構成されました。

  1. 底質中のニッケルへのばく露に最も関連性のある底質添加の方法を特定すべく、底質添加の様々な方法を評価する。
  2. ニッケル結合能が高もしくは低である底質中の底生生物10種を使用して、標準化された慢性生態毒性試験を実施することにより、信頼できる生態毒性データを生成する。
  3. 幅広い範囲の酸性揮発性硫化物、有機炭素、および鉄分を有する底質で、慢性生態毒性試験を実施することにより、底質とバイオアベラビリティの関係を調べる。

6つのニッケル底質添加のタイプをフィールド(実際の現地)に展開して、底生への定着と群集生態への影響を調べました。この底質試験プログラムにより、さまざまな底質タイプにおける底生生物の種感度分布(SSD)、最悪の状況をも想定した上でも妥当なニッケルの底質における無影響濃度(PNECsediment)、淡水底質中のニッケルのバイオアベラビリティと毒性の予測モデルなど、広範かつ質の高いデータが得られました(Schlekat等、2016年)。

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