ニッケルは長い間広く電池に使用されてきました。最もよく知られているのは1980年代に大きくクローズアップされたニカド電池 (NiCd) やより長寿命のニッケル水素電池 (NiMH) でしょう。これらの電池は電動工具や初期のデジカメなどに採用され、携帯用機器への使用の可能性を示しました。これにより人々の仕事と生活における変化の兆しが表れたのです。1990年代半ばにはニッケル水素電池がトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」の第一世代モデルに搭載されました。さらに同時期、リチウムイオン電池の最初の実用化が始まりました。カムコーダー(一体型ビデオカメラ)への搭載からスタートして、その後、今私たちが当たり前のように使用しているスマートフォンやラップトップ・コンピュータならびにその他の携帯型機器へ、ニッケルを含有するリチウムイオン電池は拡大してゆきました。
ニッケルを電池に使用する上で主な利点は、高いエネルギー密度とより大きな容量を低価格で実現できることです。ニッケル含有の電池技術の更なる利点は、蓄電池システムにおいて大きな役割を担うことができるということです。ニッケルはkWhあたりの蓄電費用をより低下させる助けとなるでしょう。蓄電池は、発電能力が一定でない風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーからの電力を蓄えることによって安定供給に寄与し、化石燃料への依存度を低減させるでしょう。
電池に含まれるニッケルは、高エネルギー密度とより大容量を低価格で実現します
電気自動車用の搭載電池
電気自動車の市場シェアが伸びているのと併せて、電池技術も進化しています。これによりニッケル含有リチウムイオン電池の比率も成長が見込まれています。最も広く使用されている電池タイプには二つあり、ひとつはニッケル・コバルト・アルミ (NCA) で、もうひとつはニッケル・マンガン・コバルト (NMC) です。NCA はニッケルを約80%、NMCは約33%含有しています。三元系と呼ばれるNMC タイプの最新の化学組成においては、ニッケルの含有率が約80% に近づいてきています。現在、ほとんどのリチウムイオン電池はニッケルあってこそと言っても過言ではないでしょう。
リチウムイオン電池は次世代の電気自動車にも搭載されています。なぜならエネルギー密度に優れている点が長距離の走行が必要とされる自動車にとって重要であるからです。実際、世界で走行している自動車総数の中に占める電気自動車 (EVs) の割合はまだ少ないですが、電気自動車の市場シェアは増えており、今後急速に伸びることが予測されています。公表されている予測値では、2025年までに10%以上を占めるようになるだろう、というものもあります。そして電気自動車のほとんどはニッケル含有リチウムイオン電池を搭載しているでしょう。ニッケルを電気自動車搭載の蓄電池として使用すれば、より高いエネルギー密度とより大きな容量を低価格で実現することができます。これにより、現在人々に電気自動車の購入を思いとどまらせる原因のひとつとなっている走行距離の短さという点を解決することが可能です。
電気自動車用の搭載電池の中のニッケルは、走行距離の伸長に貢献しています
インフォグラフィック
蓄電池技術におけるニッケルの重要性
蓄電池は通常、ひとつ以上の電気化学的単位であるセルで構成されています。そしてセル内には二本の電極(陽極と負極)と電解質から成っています。二本の電極が線で結ばれるとき、通電するのです。つまり電子が一方から他方へ流れることを意味します。電力を供給する際に電池が使用されるときは陽極が電子を放出しますが、そして電池は外部機器の回線に接続され、電気が流れてエネルギーを供給するのです。
電池には主に二つの種類があります。一次電池は単回使用され廃棄されるものですが、二次電池は充電と再利用が可能なものです。二次電池は様々なタイプがあり、鉛電池、ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが電気自動車に使用されています。ニッケルは、多くの二次電池の負極において必要不可欠な化学物質であり、次の表が示す通りリチウムイオン電池においても重要な元素です。
電池タイプ | 負極 | 陽極 | 電解質 | |
---|---|---|---|---|
アルカリ電池 | 使い捨て | 二酸化マンガン (MnO2) |
亜鉛 | アルカリ水溶液 |
鉛蓄電池 (二次電池) |
充電可能 | 二酸化鉛 (PbO2) |
鉛 | 硫酸 |
ニカド電池 (NiCd) (二次電池) |
充電可能 | オキシ水酸化ニッケル(NiOOH) | カドミウム | 水酸化カリウム |
ニッケル水素電池 (NiMH) (二次電池) |
充電可能 | 水素吸蔵合金 | 水酸化カリウム | |
リチウムイオン電池 (LCO) (二次電池) |
充電可能 | コバルト酸リチウム (LiCoO2) |
炭素ベース、典型的にはグラファイト | |
リチウムイオン電池 (NMC) (二次電池) |
充電可能 | リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCoO2) | 有機溶剤内のリチウム塩 | |
リチウムイオン電池 (NCA) (二次電池) |
充電可能 | リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAlO2) |
ニッケルは多くの二次電池タイプの負極材にとって必要不可欠な元素なのです
蓄電池
新規のニッケル含有電池技術は、再生可能エネルギー源と結びついてエネルギー貯蔵システムにおいて役割を担っています。風が吹き太陽が照るとき、風力発電のタービンや太陽光発電のパネルが電気を発電しますが、現代の電池技術はこの発電されたエネルギーを蓄えておき、必要な時に供給するのです。
現代の電池技術は生成されたエネルギーを蓄え必要な時に供給します
蓄電システムへの動きは主に再生可能エネルギー源の増大、特に風力と太陽光発電によって牽引されてきました。米国では風力と太陽光発電の合計は、この三年間に新設・増設されたすべての発電能力の半分以上を占めています。アジアと欧州もまた多額の資金を再生可能エネルギーに投じています。一方で課題もあります。電力の需要に応じて風は吹かず、太陽は照らないという点です。そのため蓄電池が配備され、生成されたエネルギーを蓄えて必要に応じて放出するために使われています。蓄電池は複雑で広大な電気インフラの安定化に寄与しているのです。
規模の経済(スケールメリット。生産量の増加に伴って平均費用が低下し収益性が向上する)がリチウムイオン電池を優勢な技術に押し上げています。これはリチウムイオン電池が家庭用電気機械器具の市場において長い歴史を持っていることと、最近巨額の投資がリチウムイオン電池製造に向けられていることの両方の理由からです。そして製造されたリチウムイオン電池のほとんどは電気自動車業界に供給されています。世界のリチウムイオン電池負極材供給業者はニッケル・マンガン・コバルト (NMC) (典型的には各元素を33%ずつ含む化学組成で三元系と呼ばれている)の製造能力を拡大させています。
電池のリサイクル
ニッケル含有リチウムイオン電池の使用は爆発的な伸びが予想されており、耐用年数を迎えた蓄電池の回収ならびにリサイクル能力も比例して成長すると目されています。耐用年数を迎えたリチウムイオン電池の安全な取り扱いと輸送の整備、さらに各国の法的要件を整備し、今後、リチウムイオン電池のリサイクル技術を確立する必要がある。
このようなリサイクルのプロセスは既に存在し、その需要に見合うように拡大可能ではあるものの、世界中の革新的な企業は将来の需要勃興を見据えて、効果的で経済的にも実行可能な方法を模索しています。
効率的なリチウムイオン電池のリサイクルは安全性や有害性の面から見て環境的な理由のため重要です。電池を適切に取り扱い、輸送することは基本中の基本です。環境面に加えて、リチウムイオン電池のリサイクルを推進する主な経済的理由は、中に使われている貴重な金属や化合物を回収して再利用するためでもあります。この回収される金属は陽極にも負極にも存在し、その中にはニッケルも含まれています。回収されたこれらの金属は新規の電池を製造する際に再利用が可能です。電池のリサイクルプロセス、別の言葉で表すと電池材料の回収プロセスと言えますが、これは乾式製錬法ならびに湿式製錬法、もしくは両者の混合方式によって行われます。
自動車産業においては、リチウムイオン電池は広範囲にまた数多く使用されており、これは世界的にリチウムイオン電池産業が急激に拡大することを予見させるものです。現在、車載用電池の保証期間は5~8年ですが、耐用年数を迎えた電池のリサイクルはそう遠くない将来ビッグビジネスとなることでしょう。加えて、リサイクルに出される電池の量は中期的に徐々に増えてゆき、新規のリサイクル施設やリサイクル技術の研究に向けられた投資はリターンを産むようになります。新しいリサイクル技術や施設は原材料の回収効率を上げる一方でコストを低減させ、循環型経済へ貢献するのです。
※ 日本語字幕が画面内に表示されます。