ニッケルブログ

給油から充電への移行:消費者心理と電気自動車

2020年12月11日

電気自動車の大規模な潜在能力の開花は、環境保護政策の域を超えて、消費者の懸念を払拭できるかに懸かっています。(ニッケル協会 市場アナリスト Parul Chhabra)

電気自動車(EV)をめぐる話は何年も前から飛び交っていましたが、EVが人々に受け入れられるようになったのは最近のことです。ガソリン車(ICE)からの排出ガスが地球の持続可能性の課題を提起するレベルに達した際、政府は気候変動の問題に対応すべく、政策の立案に着手しました。非政府組織(NGO)は危険なレベルの大気汚染について消費者の意識を高めてきました。メーカーは政府の政策に応じ、消費者を引きつけ、競争の激しい自動車業界で消費者とのつながりを保つべく、EVを展開するようになったのでした。

歴史は未来への手引き書?

歴史が未来への手引き書だとすると、消費者が移動手段に関する変化を目撃するのは、今回が始めてではありません。馬車が都市交通の主流だった19世紀、馬糞の問題に悩まされていた住民に促され、政府は代替となるエネルギー・交通手段を探し求めました。その結果、たどり着いたのがガソリン車だったのです。

歴史をひもといてみると、馬車からガソリン車への完全な移行に費やされた時間は、半世紀を超えます。手頃な価格・利便性・インフラ・法律・免許制度・法的責任などを巡って、避けては通れない課題は、時の経過とともに解決され消費者も徐々に受け入れるようになったのでした。馬車からガソリン車への移行が実際に起きたという事実を考えると、EVへの完全な移行も可能で明るい未来が待ち受けていると希望が持てます。

電気自動車の普及を最終的に確定させ、完全な電化への転換ペースを決めるのは消費者の姿勢なのです

政策だけでは不十分

近年も同様に、環境保護政策という形の政府による介入とメーカー(OEM)による政策への対応は必要ではあるものの、ICEからEVへの移行をもたらす上で十分条件ではないことが明確になってきています。EVの普及を最終的に確定させ、完全な電化への転換ペースを決めるのは消費者の姿勢なのです。

これは自動車全般に当てはまることではありますが、特にEVの場合、現代の消費者が購入を決めるにあたり評価しなくてはならない変数は数えきれないほどあります。例えば、電気自動車の価格の手頃さ・(一回の充電でEVが走行可能な)走行距離・充電の所要時間(急速充電)・充電インフラの可用性などは比較的容易に数値化が可能です。問題は、消費者の意思決定を困惑させてしまう定性的課題の多さでした。安全性のリスク評価・ライフスタイルの変容・環境に対する信念・自分自身による無制限の運転体験を失ってしまうことに対する不安・EV未体験といった課題は、個人の認識に基づく主観的な評価であり、数値化が難しいものです。

消費者の認識

「電気自動車の電池に関する消費者の懸念事項」
出典:Deloitte Global Automotive Consumer Survey 2018

こういった意味において、消費者の認識がEVの大規模普及に対する最大の障壁だとする主張は、必ずしも誇張だとは言い切れません。消費者が一枚岩の存在でないことを考えると、電池技術・EVモデル・充電インフラ、さらには販売後のフォローアップ・サービスに至るまで、EVサプライ・チェーン全域の企業から無数の個別のバリュー・プロポジション(顧客に求められているが競合他社では提供できない、自社だけが提供できる価値のこと)が存在するだろうと予測されます。ガソリン・ポンプ(ガソリン車)から電気プラグ(EV)への移行には、それぞれの消費者がEVに対して価値を認識できるバリュー・プロポジションが必須となるでしょう。

電気自動車のバリュー・プロポジションで考慮すべき最重要ポイントは、消費者の地域的な違いと人口統計的な差異です。

例えば、中国の消費者はEVを手に届く範囲の金額で購入できる高級品と捉えています。一方、日本で初期にEVを購入した消費者層は、優れた電費(電力エネルギー源の単位容量あたりの走行距離、もしくは一定の距離をどれだけの電力で走れるかを示す指標。燃費と同様に、使用する電力、タイヤ空気圧、路面状況、エンジンオイルの種類、積載重量、走行パターンなどで変化)と魅力的な補助金に基づき、経済性を考えて決断をした人々です。また欧州の消費者の場合は、排出ガス削減と運転コスト削減がEV所有の背景にある主な理由になっていますが、日常的な運転にそこまで必要としていないにも関わらず、走行距離については妥協を許しません。一方、米国の消費者は、車両価格・ガソリンの価格・走行距離に影響され、EVに対する姿勢を形成する上で家族や友人と共有する意見を重視する傾向にあります。

EV普及の背景にある主要因としてのコスト・距離・充電をめぐる課題は周知の事実であり、適切に理解されています。消費者心理を深く掘り下げて調べてみれば、例えば、充電スタンドが至るところにあれば走行距離に関する不安も解消されるなど、実際にはこれらの課題の一部が相互に関連していることが明らかになるでしょう。

サービスとしての製品

「百聞は一見に如かず」…このことわざは、EV消費者にとってより大きな意味を持っています。充電インフラの一層の可視化のみならず、EVのモデル数もまた然りです。確かに、(ガソリン車に比べてEV車の)電動パワートレイン(車の動力源。または動力を推進力として伝える装置の総称)のシンプルさは、EVの特徴(売り)ではありますが、現代の消費者が求めているのは製品のサービス化です。従って、EVにも新たなサービスが要求されることとなり、自動車産業の販売後サービスの提供者にも順応してもらわなくてはなりません。

EVの値段がガソリン車と同等のレベルに達すれば、高ニッケル含有電池技術の結果として走行距離の問題が解決され、充電時間が短縮され、充電インフラが至るところに存在するようになり、多種多様なEVモデルが発売されるようになります。これに追随する形で、消費者の認識にも変化が訪れるのでしょう。

EV市場の初期の成功は、政府の政策を取り巻く様々な要因の合流点(落としどころ)、メーカー(OEM)の政策への反応、そしてこれらによって消費者の認識・心理・姿勢がどのように進展していくかによって決まります。ただ、(政府の政策に頼らない)EV市場の自立と大規模な潜在能力の開花というリトマス試験は、政府の刺激策に関係なく消費者を引きつけ、一度限りの購入者から忠実で長期的なリピーターに転換させるような、選ばれる車としての地位を確立できるかどうかに懸かっているのです。

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