ニッケルブログ

船のマリンスクラバー
排出削減のための順応性ある解決策

2020年3月24日

硫黄酸化物 (SOx) 排出規制が強化され、マリンスクラバー(船舶用エンジンの排ガスから臭気や粉塵を補足し排ガスを浄化する洗浄装置)の使用が世界的に増加しています。スクラバーは極めて腐食性の高い環境下で稼働するため、機能停止を避ける意味で「レジリエント」なニッケル含有合金が必要となります。

硫黄およびディーゼル微粒子による人間の健康ならびに環境への悪影響は周知の事実であり、硫黄排出規制区域 (SEACs) がバルト海、北海、北米地区(米国およびカナダの指定された沿岸地区)ならびに米国カリブ海地区(プエルトリコおよび米国バージン諸島周辺)に存在します。硫黄排出規制区域における燃料の硫黄含有量上限は 2015年 1月 1日以降 0.10 % となっています。

国際海事機関 (IMO) により義務付けられている硫黄排出規制区域外の新たな SOx 排出限度は 2020年 1月 1日から発効し、船舶用バンカー油(濃密、高硫黄濃度)の硫黄分上限は 3.50 % から 0.50 % に引き下げられます。0.50 %の低硫黄燃料の使用に代えて、船舶は SOx 排出を削減するため排ガス浄化装置(スクラバー)を設置することができます。

硫黄分はなぜ高い?

一部の原油は低硫黄の「甘い (Sweet)」原油ですが、多くは硫黄含有量の高い「酸っぱい (Sour)」原油のため、それぞれタイプにより異なる処理が必要となります。高硫黄燃料である船舶用「バンカー油」は供給量が多く比較的安価です。船舶エンジンはこれに対応力があり、毎日400万バーレル (55万トン) が使用されます。バンカー油の入手のしやすさと低コストは海洋運賃のコスト構造に組み込まれています。IMO の新規制はこの現状を変えるものです。

IMO 2020 規制への対応策としてはより高価な低硫黄燃料への転換もしくは排気ガス用スクラバー装置の設置です。

特に大型船舶に関しては、マリンスクラバーの低コストと投資回収期間の短さからコンテナ船は多くがスクラバーを設置する予定で、IMO 諸国の罰金を避けようとしています。現在スクラバー装置設置を要する船舶が多いため、それを実施するための素材供給業者、機材供給業者および工事施行業者は大忙しです。

撮影:Meyer Werft

開ループと閉ループ

これら規制の要件に対応するため二つの湿式スクラバー技術が開発されました。開ループと閉ループです。多くの場合、海洋環境のアルカリ度あるいはゼロ排出指定海域での航行条件に基づいて、最も適切な技術を採択できるよう二つの技術を融合したシステムに組み合わせられます。

スクラバーの内部は極めて過酷な環境です。高温の酸性塩化物溶液にはアロイ31 (N08031)、アロイ C-276 (N10276) およびアロイ 59 (N06059) などの耐食性の高いニッケル合金の使用が必要となります。

スクラバーの内部は極めて過酷な環境です
高温の酸性塩化物溶液には耐食性の高いニッケル合金の使用が必要となります

湿式マリンスクラバーにおいて、排気ガスは流水の中を通り、硫黄酸化物は洗浄水と反応して硫酸を形成することで除去され、浄化されたガスは煙筒を通して排気されます。洗浄水との反応で生成された硫酸は洗浄水のアルカリ性により中和されます。

洗浄水は通常スラッジ(沈殿物)を除去するため分離器で処理した後に海洋に放出可能です。

開ループは海水の自然のアルカリ度を利用して中和するのに対し、閉ループはアルカリ溶液(一般的に水酸化ナトリウム、いわゆる苛性ソーダ)を加えて中和を行います。

閉ループのスクラバーシステムはアルカリ度の低い海洋水域で必要となります。洗浄中和処理されれば、廃液は安全に海洋に排出が可能になります。排出禁止区域で航行中は、廃液は貯蔵タンクに回収し、陸上での処理が必要となります。

様々なタイプのマリンスクラバーはエンジンの一部であり船舶の安全航行に不可欠なものです。万一作動しない場合、船主は環境および人間の健康に被害をもたらしかねず、同時に重大な法的責任と信用の失墜のリスクにさらされます。

新しい規制は多くの人々が暮らす港周辺や沿岸地域での大気質を大幅に改善し、これらの地域での公害による喘息や早期死亡ならびに酸性雨を防ぐことになります。ニッケル含有合金の力を得て海運業界は「洗浄」されるでしょう。

開ループ型スクラバー

開ループシステムは洗浄液として海水を使用します。生成された硫酸は海水に含まれる炭酸塩やその他の塩と反応して中和され硫酸塩を形成します。この洗浄液は固形物を除去しpHを上げてから海洋に戻されますが、除去された固形物は陸上での処理のため船上に貯蔵されます。開ループのスクラバーは海水の自然のアルカリ性により適正に作動しますが、淡水および汽水ではアルカリ度の不足のためこのシステムは有効ではありません。この理由により、開ループのスクラバーはバルト海、河口や陸地に近い海域など塩度の低い地域では適していないとされています。マルポール規制では洗浄水は排出される前にpHは6.5以下にはならぬよう確認することが義務付けられています。

閉ループ型スクラバー

閉ループシステムはアルカリ溶液(一般的に水酸化ナトリウム、いわゆる苛性ソーダ)を洗浄液として使用しますが、これは低アルカリ性の水域(淡水または汽水)および排出禁止区域において必要です。このプロセスは塩化物が低いため腐食性は高くありません。しかしながら塩化物は時と共に洗浄液内に増加するので入れ替えが必要です。操業環境により異なりはしますが、どのようなスクラバーの装置であれ一定量のニッケル含有素材が必要となります。

ニッケル協会の技術サポートでは、スクラバーならびにその他用途のニッケル含有材料に関する質問を受け付けています。

またエンジニアや材料の仕様作成者向けの広範な技術刊行物は、ニッケル協会ウェブサイトのライブラリーから検索できます。

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